睡眠研究の第一人者・西野精治氏(『スタンフォード式 最高の睡眠』著者)とともに創業し、「脳と睡眠を科学するソリューションカンパニー」を掲げる株式会社ブレインスリープ。枕やマットレスなどのプロダクトにとどまらず、直営店、睡眠専門鍼灸院、睡眠計測アプリまで、多面的な接点で日本の睡眠課題に向き合っています。
同社は2024年7月、カートシステムのShopifyリプレイスと同時にStackの「VIP-会員プログラム」を導入し、既存のポイントを移行して運用基盤を整えました。そして2026年4月、ブランド初の直営店オープンと同日に、会員プログラム「BRAIN SLEEP MEMBERS」を本格リリースしました。
長く使い続けられる寝具という商材で、購入後もお客様との関係をどう育てていくのか。ブランドカスタマーグループを統括する尾崎美桜さんと、自社ECを管轄する小田島さんにお話を伺いました。
インタビュイー
- マーケティング推進部 ブランドカスタマーグループ ブランドカスタマーユニット リーダー 尾崎美桜様
- 販売チャネル推進部 プロダクトセールスグループ Webチャネルユニット リーダー 小田島豊様
研究ありきで生まれた、「90%以上が空気」の枕
ブレインスリープは、42万部のベストセラー『スタンフォード式 最高の睡眠』の著者である西野精治氏とともに、日本に正しい睡眠の知識を浸透させ、睡眠課題を解決するべく創業された睡眠ソリューションカンパニーです。専門家と連携した睡眠研究・医療連携、オリジナルプロダクトの開発、企業やクリニックへのコンサルティングまでを手がけています。
その象徴が、主力プロダクトの「ブレインスリープ ピロー」です。誕生の背景には、マーケティングではなく研究がありました。
睡眠の質を高めるには、頭部の熱を逃がす「通気性」が重要。研究から導かれたこの知見に対して、当時市場で主流だったのは熱がこもりやすい低反発素材やふかふかの羽毛枕。医学的に見ればむしろ逆の存在でした。「求める枕が市場にないなら、自分たちでつくろう」。そうして通気性に優れた素材を探すところから開発が始まったのが、90%以上が空気でできたブレインスリープ ピローです。
通気性だけでなく3層9グラデーションの特許構造でどんな寝姿勢にもフィットする「洗える」という特徴も打ち出しました。研究から出発する同社のものづくりを象徴するプロダクトです。
現在の中心顧客は30〜40代。日中のパフォーマンスを上げたいと考え、睡眠を「投資」と捉える層がコアだといいます。
買い替えサイクルが長い商材で、顧客接点をどうつくるか
ー 自社ECを運営するなかで、現在どのような課題を感じていますか。
小田島:D2Cブランドとして自社ECに注力するなかで、課題も明確でした。ひとつは集客です。広告のコストは年々上がり、同じ投資で集客できる人数は減っています。SEOも、睡眠の悩み系ワードは医療・クリニック系ドメインが強く、オーガニックでの集客は簡単ではありません。広告に依存しない集客チャネルをどうつくるかは、ずっと向き合ってきたテーマです。
そこで力を入れてきたのが、既存のお客様からの「紹介」です。ブレインスリープを気に入っていただいたお客様が、身近な人に薦めてくれる。この自然な口コミの流れを新規獲得チャネルとして仕組み化してきました。
ー 「高単価・低頻度」の商材で、顧客との継続的な接点をどうつくるかは大きな課題だと思います。ブレインスリープではどのようにアプローチされていますか。
小田島:もうひとつの構造的な課題が、寝具という商材の特性です。枕は頻繁に買い替えるものではなく、購入後の継続的な接点が生まれにくい。だからこそ、購入以外のところでお客様との接点をどうつくるかにずっと苦労してきました。会員プログラムを通じてタッチポイントを増やしたい、というのが取り組みの出発点にあります。
「善意頼み」から脱するためにレビュー収集を再設計
ー VIP導入前、レビュー収集ではどのような課題がありましたか。
小田島:「使ってみないとわからない」商品だからこそ、ご購入を検討されている方にとってレビューやクチコミは重要な判断材料です。しかしVIP導入前は、レビューを書いてくれたお客様に感謝の気持ちを形にする手段が少なく、投稿すること自体のメリットを十分に提示できていませんでした。レビュー投稿はお客様の善意に頼る形になっており、投稿数を安定的に増やしていく仕組みがないことが課題でした。
一方で、集まるレビューの質には手応えがあります。投稿率はまだまだ課題ですが、いただくレビューは良い体験を評価してくださるものが多いんです。もちろん厳しいご意見も一定数ありますが、弊社ではいただいたレビューは良いものも悪いものも基本そのまま掲載するスタンスです。
今後は、新商品の立ち上げ期にレビュー投稿のインセンティブに柔軟性を持たせるなど、レビュー収集の仕組みの見直しも検討しています。
VIP導入のきっかけ / 継続利用の決め手
ー VIPを導入されたのは2024年7月と伺っています。それ以前のポイントプログラムや会員制度はどのような状態でしたか。導入・刷新を検討されたきっかけを教えてください。
小田島:VIPの導入は2024年7月。旧ECプラットフォームからShopifyへカートシステムをリプレイスするタイミングでした。それまではカートシステムに付随するポイント・会員ランク機能を利用していました。以前のプラットフォームでやっていたことをShopifyでも実現するには、と構築パートナーに相談したところ、『VIPなら使いやすく、既存のお客様に付与していたポイントの移行もスムーズですよ』と。それが最初のきっかけです。会員ランク制度などの機能がシンプルで、コスト面でも導入しやすかったです。
ー Stack社のVIPを選定された決め手は何でしたか。VIPに感じた優位性があれば教えてください。
小田島:導入後、使い続ける理由は、大きく次の4点です。
- Shopify Flowとの連携——柔軟な自動化がプログラム運用の土台に
- 柔軟なポイント付与機能——購入以外のアクションにも幅広くポイントを設計できる
- リワード機能——ポイントを商品交換などにも利用でき、ポイントの出口を広げられる
- Stackの手厚いサポート
他のアプリも含めてしっかり比較したうえで、それでも使い続けたいと思えました。海外製アプリは英語ベースで細かい運用がしづらい面もあるなか、機能面の利便性に加えて、困りごとがあればすぐに聞けるサポート体制が本当にありがたいです。
「BRAIN SLEEP MEMBERS」の設計思想
2026年4月、ブランド初の直営店オープンと同日にリリースされた会員プログラムが「BRAIN SLEEP MEMBERS」です。設計を主導した尾崎さんに、コンセプトへの思いを伺いました。
ー 「BRAIN SLEEP MEMBERS」という名称やコンセプトに込めた思いを教えてください。
尾崎:前提として、私たちのパーパスは『睡眠を通じて人々の可能性を広げる』こと。ロイヤリティプログラムも、単なる『買えば買うほどお得になるポイント制度』で終わらせたくないという思いがありました。そのため『ぐっすり眠るほど、お得も楽しみも広がる。』というコンセプトを掲げています。良い睡眠に投資するほどお得が増えるのはもちろん、その先にある日々のポジティブな変化や楽しさにつながっていく。そんな、お客様の毎日が豊かになっていく感覚を大切にしました。
名称も感覚では決めませんでした。①ブランドとの整合性、②お客様にとってのわかりやすさ、③将来の拡張性——3つの基準で複数案を比較検討した結果が「BRAIN SLEEP MEMBERS」です。
誰にとっても一目でBRAIN SLEEPの会員プログラムだと伝わるシンプルさと、「一人ひとりがBRAIN SLEEPの一員である」という帰属感を込められること。この2点が決め手でした。
顧客データから逆算したランク設計、累計制という選択
会員ランクの設計にあたっては、他社事例のリサーチだけでなく、自社のお客様の行動・購買データの分析から出発しました。
尾崎:他社さんの設計をどれだけ参考にしても、自社のお客様のデータをもとに設計しないと機能しないと考えました。改めて分析したうえで、累計購入金額ベースでランクを分けています。最初のステージも、枕が3万円前後という商材なので少しハードルは高めに、でも『届かなくはない』金額感に設定しました。
特徴的なのは、ランクの判定を年間リセット型ではなく累計購入金額制にしたことです。
尾崎:他社さんは年間でリセットする設計が多いのですが、寝具は年に何度も買い替えるものではありません。そこはお客様の実際の購買サイクルに寄り添った形で、累計制にしています。
もうひとつユニークなのが、特典への「ギフト」の組み込みです。データを分析すると、2回目購入の大きな動きはクロスセルとギフト。「良かったから大切な人に贈りたい」という需要が確かに存在していました。ランク特典にギフトオプションを組み込んでいるのは、この需要をさらに伸ばしたいという意図からです。こうしたデータ分析は日々のコミュニケーションにも落とし込まれており、購入商品や経過日数に応じて届ける情報を出し分けるシナリオも運用されています。
「貯めて終わり」にしない、出口とタッチポイントの設計
ー ポイントの利用率を高めるための工夫について、設計の考え方を教えてください。
尾崎:ポイントの利用率を高めるための工夫は、大きく2つあります。1つ目は、「貯めて終わり」にならないよう、使いたくなる出口を用意することです。通常の商品購入だけでなく、ここでしか交換できないものにも使える、という選択肢の幅が利用を後押しすると考えています。とはいえまだ理想には遠いので、今後お客様のニーズを拾い上げて形にしていきたいです。
2つ目は、そもそもの認知です。ポイント制度を知らないと、貯める行動も使う行動も発生しません。メルマガには、お客様ごとの保有ポイント数を常時表示し、ポイントが貯まるアクションを案内する固定バナーも設置しています。地道ですが、継続していきたいと考えています。
会員登録時に付与されるポイントを、初回購入から利用するケースもあります。一方で、2026年4月のリリースから日が浅く、プログラムをご存じではないお客様も多いため、認知拡大は引き続き課題です。購入以外のアクションポイントもバリエーション豊富で、「大切な人の誕生日登録」のようなユニークな項目も。登録された誕生月に合わせてギフトを提案するなど、貯まったデータをCRMに活かす設計まで見据えています。
割引は「入口」、体験は「続ける理由」
ー ランク特典における割引と体験型特典(ギフトオプション無料・限定商品交換など)のバランスについて、設計の考え方を教えてください。
尾崎:ポイントやランク特典は、割引と体験型で役割を分けて考えています。割引はわかりやすく行動のきっかけになる一方、それだけだと『安いから買う』関係で止まってしまう。私たちが目指しているのは、値引きに頼らずブランドを選び続けていただく関係です。割引は入口として置きつつ、続ける理由は体験型でつくる。最終的には体験型の比重を上げていきたいと考えています。
その一例が、長く使ったお客様が特別価格で買い替えられる「ブレインスリープ エコサイクルプログラム」です。買い替えのきっかけが生まれにくい寝具において、長期利用者だからこその価値を提供しながら、公式サイトでの買い替えを自然に促す仕掛けになっています。
友達紹介プログラムは「本当に困っている人」に届けることにこだわる
ー 友達紹介プログラムを導入された背景と、現時点で見えている効果を教えてください。
小田島:広告に依存しない、新規のお客様との接点を作ることを目的に、以前から取り組んできました。もともと「友人・知人からの紹介で知って購入した」という声が一定数あったことから、インセンティブを用意して紹介しやすい環境を整えてきました。現在もコンスタントに紹介経由で新規のお客様をお迎えできていて、利用実績は想定以上です。ご紹介いただく相手は、ご家族や身近な知人が中心です。
こだわっているのは、友達紹介を、純粋に睡眠に悩んでいる身近な方に紹介していただくためのサービスにしたいという点です。紹介コードがSNSなどで不特定多数に拡散されてアフィリエイトのように使われてしまうと、本来の趣旨から外れてしまう。なので、不特定多数への拡散を防ぐ設計を組み込んでいます。
過去には紹介コードのSNS拡散をきっかけにサービスを一時停止した経験もあり、Shopifyリプレイス後の再構築では、Shopify Flowを活用して健全な利用を担保する仕組みを実装しました。「困っている人への紹介」という原点を守る設計思想が、プログラムの信頼性を支えています。
今後の展望: 会員であることが、眠りを整えるプロセスになる
ー 今後、会員プログラムを通じてさらに実現したいことは何ですか。体験型特典や睡眠専門鍼灸院との連携など、構想があればお聞かせください。
尾崎:いまある会員プログラムを「お得さ」だけで終わらせず、BRAIN SLEEPらしさを体現する場に育てていきたいと考えています。『ぐっすり眠るほど、お得も楽しみも広がる』というコンセプトの「楽しみ」を、BRAIN SLEEPだからこそできる形にまで広げたい。
私たちの強みは、オンラインストアだけでなく直営店や睡眠専門鍼灸院、睡眠計測アプリなどといった多面的な接点を持っていること、そして睡眠計測アプリを通じて得られる睡眠データも含めた、お客様の行動・購買データを保有していることです。これらをもとに、一人ひとりの眠りに寄り添った提案や体験を還元していきたい。
会員であることが、単なる購買履歴の蓄積ではなく、『眠りを整えていくプロセス』そのものになる。そんな状態を目指しています。購入がなくてもブランドに触れられる体験の場づくりや、睡眠計測アプリの睡眠データとShopifyのメタフィールドを連携させた、より深いパーソナライズの構想も進んでいます。
これから導入するブランドへのアドバイス
ー 最後に、これから会員プログラムの導入を検討しているブランドへのアドバイスがあれば一言お願いいたします。
尾崎:早い段階からStackさんに相談しながら、進め方を整理していくのがおすすめです。会員プログラムは気軽に始められるものではなく、設計や仕様の確定にはそれなりの検討が必要です。私自身、ゼロからの設計は初めてで大変でしたが、相談すると他社事例も含めて本当に親身にアドバイスをいただけました。Stack社と一つひとつ仕様を詰めながら進めたおかげで、リリース後は安定して運用できています。
睡眠という、成果がすぐには見えにくい領域で、科学的な裏付けとともに顧客に寄り添い続けるブレインスリープ。「会員であること自体が眠りを整えるプロセスになる」という同社の挑戦を、Stackはこれからも支えていきます。
編集後記
枕やマットレスは、一度手にすると何年も毎日使い続けるプロダクトです。だからこそ、購入の瞬間だけでなく、使い続ける日々にどう寄り添うか、ブレインスリープの会員プログラムは、この問いに正面から答える設計になっていました。
購買サイクルに寄り添う累計制のランク、購入以外にも広がるアクションポイント、割引を入口に置きつつ体験で関係を深める役割分担。自社のお客様の行動・購買データに照らして一つひとつ導かれた設計です。会員であること自体が、眠りを整えるプロセスになる。ポイント残高ではなく、お客様の毎日が豊かになっていく過程を設計するという宣言に、私たちも道具の側から応え続けます。
