世代を超えて愛されるセレクトショップ「Why are you here…?」の挑戦。ECで見出す新たな顧客層

世代を超えて愛されるセレクトショップ「Why are you here…?」の挑戦。ECで見出す新たな顧客層

大阪のファッションシーンにおいて、その名を知らぬ者はいない老舗セレクトショップ「Why are you here…?(ホワイ・アー・ユー・ヒアー?)」。そのEC事業が現在、急成長を遂げています。

背景にあるのは、名門アパレル商社・三喜商事への事業譲渡。アパレル商社ならではの強固なネットワークと、鋭い審美眼を誇るセレクトショップの感性が交錯し、そのシナジーがECの成長に大きく貢献しているようです。
今回はそんな「Why are you here…?」が長年培ってきたバイイングの質、デザイナーとの独自の関係性、そしてそれらをECで具現化する手法など、具体的なEC事業成長の裏側についてお話をお伺いしてきました。

インタビュイー

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三喜商事株式会社 
Why are you here…? ディレクター 松尾 美芽さん

2020年入社。セレクトショップへの卸業務を経て2021年から現職。2024年夏からEC業務に携わり、主にWEBデザイン・サイト更新業務・広告 / SNS運用・一部ロジスティックスまで幅広く担当。

ブランドのコンセプトと特長

ー まずは「Why are you here…?」の事業についてお伺いさせてください。他のセレクトショップと比較して、「Why are you here…?」ならではの特長は何でしょうか?

松尾:Why are you here…?では以前はストリート色が強い時期があったのですが、現在はラグジュアリーのイメージを重視しています。わかりやすい例を出しますと、LAのMaxfieldのようなイメージでしょうか。

ラグジュアリーストリートのブームから、昨今はストリートメインのセレクトショップが多い中で、ラグジュアリーブランド中心の取り扱いが差別化要素であり、Why are you here…?の強みだと考えています。店舗によってはストリート色を感じる事もあるかもしれませんが、それでも程良くミックスする程度です。

最近ではバレンシアガのようなブランドは若い方にも認知されるようになりましたが、Why are you here…?ではニコラ・ゲスキエールがディレクターだった頃から取り扱いはありましたので、古い顧客様は年齢層が高い方が多く、取り扱いブランドを見て来られる新規の方は若い世代のお客様が多いです。世代を超えて愛されるブランドを取り扱う事で、ショップの年齢層の幅を広げてくれています。

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御堂筋店の店内の様子

ー 三喜商事というインポーターが老舗セレクトショップを運営する事のシナジーはありますでしょうか?

松尾:各地域にはそれぞれ「名店」と言われるような、ショップコンセプト・バイイングが秀逸な有名店があるものですが、良いセレクトショップほど後継者がいないという課題が過去からあります。創業者の培ったコネクションや、ブランド・商品を選定する審美眼は属人的であり、継承するのは難易度が高いものです。

そのようなショップを、我々のような規模感のある企業が入る事でより良くしていきたいという思いがあります。また、弊社のようなインポーターは過去から自社でバイイング・編集したセレクトショップの展開に挑戦してきましたが、セレクトショップとインポーターが得意な業務を分担すれば、双方の課題が解決されると考えました。

顧客層とターゲット

ー 新進気鋭のストリートブランドなど、幅広いブランドを取り扱っていらっしゃいます。主にどのような顧客層にアピールされているのか、その特長について教えてください。

松尾:若いお客様が来店される理由の一つは、ESSENTIALSやREADYMADEのようなブランドが好きで、取り扱いショップを探した結果ご来店される事が多いです。特に大阪だと取り扱いが少ないブランドを幅広く取り揃えていますので、希少性の高いブランドを探されている方は多数いらっしゃいます。コロナ禍はそのような動きがECで顕著に表れました。

直近は店頭回帰から大通りのトラフィックが増加し、品揃えを見てフリー客が来店されるケースも増えました。やはり、他のショップでは中々見る事ができないブランドが多く揃っているというのが大きな理由です。

顧客様に関しては、古くからの店長のお客様が多くを占めますので、ラグジュアリー・モード好きの方へ向けた品揃えは意識しています。

現在、2店舗の展開でそれぞれコンセプトが違うのでこのような住み分けが可能になっています。結果的に幅広いお客様の獲得ができるようになりましたが、「良い商品を置く」という原理原則は変わりません。その為にはとにかくリサーチを徹底し、良いブランドを探す事に余念はありません。それらをEC含め、お客様に認知して頂く。ターゲティングはブランド軸で自ずと決まります。

また、店頭で売れにくい商品もECなら幅広いお客様に見てもらえますから、そこで新しくリピートして頂ける事もあるのがECの良い点ですね。

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本店の店内の様子

ー ECをスタートした背景を教えてください。(いつ頃から・どういうきっかけで)

松尾:事業譲渡以前からEC自体はあったのですが、古いカートシステムを使っていましたので3年前にShopifyにリプレイスしました。

Shopifyを採用した理由は、安価で可能な打ち手がとにかく多い事です。メールマガジンの機能1つ取っても、他のカートには無い機能が豊富にありますし、Shopfiy Flowのような機能も無料で使えます。本来であればMAツールの導入が必要なものがほぼ無料で使えるのは脅威です。

UIもとにかく優れており、ノーコードで使える範囲が広く、初心者でも使いやすいと感じます。
現在は店舗在庫をECに充てていますが、今後は弊社で取り扱いのある他ブランドと在庫連携を進めていきたいと考えております。

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公式オンラインストア

ー 効果のあったEC施策を教えてください。

松尾:海外で認知度が高いドメスティックブランドの別注商品を用意するなど、独自の取り組みをしております。その結果、海外からの問い合わせや注文が増え、SNSのフォロワー数も急速に増えております。これは三喜商事のネットワークを活用した取り組みであり、事業譲渡の恩恵の一つですね。

VIP会員プログラムの導入背景

ー このたび、Stack社が提供するVIP会員プログラムが導入されました。導入の背景や目的についてお聞かせください。VIP会員プログラムを導入されるにあたり、どのような具体的なニーズや課題がありましたか?

松尾:ポイントシステムは導入していたのですが、現状ではリピーターのメリットが弱かった事が一番の理由です。そこでステージ制度の導入が可能なVIPに目をつけました。

店舗では会員制度はあったものの、古い顧客様への対応・特典は店頭主導の元、属人化されていましたのでルールがやや曖昧であり、EC主導で会員ステージを明確化する事で店舗のルールも確立しようと考えました。それ以外に、ECでよく購入してくださる顧客様を優遇したかったという理由もあります。

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ー Stack社のプログラムを選択された理由をお聞かせください。

松尾:サービスの内容が非常にわかりやすく、UIが優れている点です。また、ローンチまでのサポートも迅速で手厚く、ステージの切り方や特典内容の相談にも乗ってくれます。導入実績が豊富でアパレルブランドの取り扱いが多かった事も決め手になりました。

特にステージの切り方は一番の悩みどころでした。Why are you here…?では、一見のお客様と顧客様の購入金額の差が激しかったので、そのような悩みも相談に乗ってくださいました。

導入後の期待と効果

ー プログラム導入後、どのような効果を期待されていますか?また、現時点での顧客からの反応やフィードバックについてお聞かせください。VIP会員プログラムを通じて、どのような具体的な成果(顧客定着率の向上など)を目指されていますか?

松尾:初回購入者の中での会員登録率が2割程度なのですが、これを3割に伸ばしていく事が目標です。また、現在レギュラー会員が15,000人程度で全体の95%を占めていますが、顧客育成からステージをなるべく上げて頂き、この数を80%程度にしたいです。

具体的な施策としては、初回会員登録特典として500ptの付与をサイト内で目立つようにしてから会員登録は15%程度増えましたので、特典の露出とそこからのリピート率向上を更に伸ばしていきたいですね。

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メンバーズプログラムのご案内

ー 導入からまだ日が浅い中で、現在までに見えてきた課題や改善点はありますか?

松尾:先ほどの課題とやや似ていますが、購入実績のあるお客様で会員未登録の方がまだたくさんいらっしゃいますので、こちらの登録を促進する事ですね。

それを解決する方法として、会員限定のシークレットセールやアーリーアクセスなどを検討しています。また、会員登録はお済みなのにメルマガを登録されていない方も多数いらっしゃいますので、こちらも課題です。お客様にとって有益な情報の発信と、受け取れる情報をわかりやすい箇所に明記して対策したいと考えています。

今後の展望と課題

ー VIP会員プログラムを通じて、今後どのように顧客との関係性を深めていきたいとお考えですか?

松尾:店舗との連携はもっと柔軟にしていきたいですね。会員制度を店舗と更に足並みを揃えて、店舗で獲得したお客様にもっとECをご活用頂くのが目標です。お店のイベントはEC側でプッシュしているものの、逆が弱くまだ分断は感じております。

モバイルアプリを会員証にする事で、プッシュ通知から店頭顧客をECに送客可能になるので、Appifyの導入は検討しています。

今後の事業展開やStackへの期待など

ー 最後に、今後の事業展望や、Stackに期待することなどあれば教えて下さい。

松尾:やはりAppify(モバイルアプリ)の導入ですね。今、弊社が抱えている課題は概ねこちらで解決すると考えています。また、Stack様が東京で開催されているEC交流会は、関西でもあると良いですね。横のつながりを増やして情報交換をより活発にしていきたいです。

編集後記

感度の高い商材を扱うショップにとって、施策が「ダサく見える」ことは致命的なリスクであり、だからこそECの取り組みには慎重になる必要があります。

Why are you here…?の若い世代の心をも射抜くバイイング、そして熱量を絶やさないようなSNS・ECでのタッチポイントの強化。そのバランスの取れた取り組みは、互いの強みを見極め必要なピースを的確に組み合わせることで、感度を損なうことなく、むしろそれを研ぎ澄ませながら進化していっているように思えます。そして、それは単なる販売戦略ではなく、セレクトショップとしての存在価値をさらなるステージに押し上げます。

名店と呼ばれたセレクトショップの審美眼、老舗インポーターが培ってきた確かな信頼。それらが掛け算になるには双方の理解が重要であり、ECと店舗もかくあるべきという事を示唆する好例と言えるのではないでしょうか。

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