人気スマートフォンゲーム「モンスターストライク(以下「モンスト」)」のグッズ専門ストア「モンストア」では、ゲーム内で燃え上がる“推しキャラ愛”をそのままEC体験へと昇華させる取り組みを加速させています。
貯めたポイントで投票したキャラが必ず商品化される仕組みや、※世界に一つだけのオーダーメイドぬいぐるみと交換できるリワード(※2025年4月30日に終了)など、ファンの情熱をダイレクトに形にする独自プログラムが次々と生まれています。割引ではなく「欲しいものが確実に手に入る」という価値提案により、客単価は従来比約1.5倍、リピート率も20%向上しました。オンラインとリアルを横断しながら、新たな“推し活”の舞台を創り続けています。
そんな現場の裏側を、モンストアを運営している株式会社MIXI、野口 優作氏と秦 美輝氏のお二人にお話を伺いしました。
推し活を形にするエンタメECの新定番 ─ モンストアが描く顧客体験
秦:モンストアは前身のXFLAG STOREがリニューアルし立ち上がったモンスト専用のグッズストアです。ゲームのグッズを取り扱うということで、ゲームをやり込んでいるハイランクのユーザーやゲームのキャラに推しがいる熱量の高いファンが多く集まります。そのためただグッズを購入するだけではなく、新しい体験を提供できるようなECサイトにしていくことを重要視しています。
例えばDREAMDAZE(通称:モンドリ)というモンストの大きなイベントが1年に1回あります。イベント専用のグッズ、アパレルやタオルなどイベント当日に持ってきていただけるような商品も販売しています。
野口:コアファンはもちろん、ライトユーザーでも楽しんでいただけるように様々な取り組みを行なっていますが、特に注力しているのがモンストアポイントです。ポイントを活用している取り組みの一つに、ポイントで投票したキャラが確実にグッズ化するという企画を行なっています。

モンストのオリジナルキャラ数は6,000以上。全てのキャラをグッズ化することはハードルが高いです。そのため、ファンの中には自分の好きなキャラがグッズ化されないことが理由になってしまい、モンストは好きだけどグッズは買ったことがないという方もいました。
このような潜在層のファンでも楽しんでいただけるように、モンストアポイントを活用しています。

ー 全てのキャラではないにしても要望のあったキャラを網羅的にグッズ化するのはかなり大変に思えます。
秦:キャラクターのグッズは在庫を持たない受注販売形式で制作をしていますが、納期内で各キャラごとにデザインを作成する必要があるため、確かに大変です。ただファンの皆さまに普段から愛情や興味を持って推していただいているキャラクターのグッズをお届けする事が重要だと考えているため、やるべきことだと考えています。
野口:実は以前より顧客体験も社内オペレーションも改善されています。現在キャラクター投票券はポイント交換による引き換えですが、従来は、先着順の投票で全てではなく、1,000キャラ程度のキャラクターラインナップのみを展開しておりました。しかし、投票された中で購入に繋がるのは1,000キャラのうち半分ほど。労力をかけていたデザイナーとの軋轢も生まれてしまいそうでした。また自分推しキャラが1,000キャラの中に入っていないというファンからの不満もありました。自分が貯めたポイントによる投票にしたことで、自分ゴト化が強くなり、今では投票キャラのうち80%近くが購入につながり、自分自身が好きなキャラに投票いただくことが可能になっています。
リワード > 割引 エンタメECが求められるファンからの期待
秦:モンストアポイントは一切割引に使えず、リワード交換に特化しています。一般的なポイントは割引とかで活用するイメージがあったので、スタートする時にお客様からどのようなリアクションをいただけるのかは不安もありました。
実際、5000ポイントで好きなキャラのぬいぐるみをオーダーメイドで作成する取り組みなどは社内の期待以上に好評でした。締め切り間近のアナウンスをすると足りないポイントを貯めるための駆け込み購入をしてくださる方もいました。
ぬいぐるみは型から起こさないといけないため、人気キャラが中心にグッズ化されます。自分の推しキャラの公式から出ているぬいぐるみが手に入るチャンスが今しかないと思っていただけたと考えています。
野口:さらにそのぬいぐるみは文字入れが可能で、世界に一つだけのぬいぐるみになります。SNSでも話題を作ることができ、交換数も想定を上回っていたのでインパクトを出せたと感じています。

ー エンタメならではのキャラ愛を感じます。
秦:そうなんです。そのため割引より自分が欲しいグッズが手に入る方がよりニーズにお応えしたリワードだと思っています。好きなキャラのグッズは全てほしい、エンタメのグッズはこのような世界です。
好きなキャラの缶バッジを何十個も集め、自身の鞄を装飾したり、家の棚に推しキャラのありとあらゆるフィギュアが置かれていたり。その中に自分だけのアイテムがあると、ファンとしては嬉しいことだと思います。

野口:普段の買い物がある意味、投資という形でポイントが付与され、最終的に自分だけの商品と交換できる。グッズも増やしつつ、モチベーションも上がり続ける取り組みだと思っています。
この取り組みはエンタメならではです。私と秦はアパレルブランドなどのECを経験していたことがあり、そこでもポイントプログラムを導入していましたが、ほとんどは割引のためのポイントでした。セール時期に波を作るというその業界では当たり前の考えも、エンタメ業界だとあまりいい施策とはいえません。エンタメだからこその取り組みがファンにも求められていると思います。
客単価+50%、リピート率+20%を達成した推し活リワード
秦:ポイントプログラムをスタートしてから約1年が経過しました。リニューアルした当初から、常連のお客様に恩返しができておらず歯痒い気持ちがありポイントプログラムはかなり前から調べていました。しかし、調べていたサービスの全てが割引のためのプログラムとなっており、自分たちの理想を実現できないことから導入には至りませんでした。そんな中、現在のShopifyのサイトを支援していただいているウェブライフさんからStack社のポイントプログラムアプリ「VIP-会員プログラム」を教えてもらいました。
実際に話を聞いてみると自分たちのやりたいことのイメージがすぐにできました。導入も1ヶ月ぐらいですぐに決めました。私たちのポイントのページはStack社のデフォルトのものではなく、各アイテムごとに引き換えのページを作っていたりカスタマイズをしてもらっています。それでも導入までは3〜4ヶ月ほど。スピーディにご対応いただきました。
野口:要件が合致したこともそうですが、Shopifyとの親和性が高いことも意思決定しやすかった要因です。Shopify自体も設計次第で施策の幅を広く持てます。VIPはその施策の幅を活かすことができるため、自由度が高く、エンタメならではの要件にも対応してくれています。
ー スタートして1年経過しましたが成果としてはどのような効果が出ていますか?
秦:様々な効果は出ているのですが、一番は客単価です。従来より50%ほど上がっています。購入だけで終わるのではなく、推しキャラのオリジナルグッズを手に入れるため、以前より単価の高い商品や複数商品のまとめ買いが増えました。キャラ愛の時にも言及しましたが、缶バッジなどは一度に数百個購入される方もいます。ポイントという見返りもあるため、熱量が高い方の単価は大きく上がっています。
野口:単価以外にもリピート率も20%ほど上がっています。ファンと一緒に作っている商品ラインナップ「ファンと創るモンストグッズ」があるのですが、シリーズ化しており、ファンにも認知してもらっています。その中でもポイント投票されたキャラのラインナップが増えていきます。次回の商品がいつ頃に販売され、必要なポイントがどれくらいか事前に告知することで推しキャラのアイテムを手に入れるために必要なポイント数を逆算できるようになっています。仕組み化できたことで、自然とリピート率も高くなってきています。
秦:ファンと創るモンストグッズは企画が面白いです。商品企画の段階からお客様を巻き込みながら、デザインやサイズ、ラインナップなどもお客様の意見を取り入れながら開発を行なっています。メルマガが導線となっているのですが、公開後の企画の道のりを紹介したコラムを読んでCSにお問い合わせいただく方などもいました。
他にもファンの方から好評なのがデジタルコンテンツです。スマホの壁紙やSNSのアイコンやヘッダーに使える画像を高画質で用意しています。普段はゲームで見ていただくことが多いためズームなどができないので、高画質な壁紙は喜んでいただけています。

新キャラ発表は“祭り”の合図 熱量ピークに合わせる施策設計
野口:今後、ゲームアカウントデータと連動した商品や施策も展開を検討中ですが、上手くいけばエンタメならではの取り組みになっていくと思っています。
秦:モンストのゲームデータももちろんですが、タイミングも重要になります。例えば、新キャラの発表時や既存キャラに新たな進化形態が発表された際は一種のお祭り騒ぎになります。ユーザーのモチベーションも上がるタイミングになるので、ゲーム以外でも熱を失わないように施策を準備する必要があります。この辺りはエンタメならではの考えだと思います。
野口:推し活はエンタメ市場でも盛り上がりを見せています。推しへの想いに対して、熱量を発散・刺激できる場を作り続けることはとても重要です。ポイントプログラムはファンの能動的なアクションを呼び起こせているため、引き続き話題になるようなリワードを考えていきたいです。そのためにはStackさんへのお願いは今後も増えていくと思います。
秦:Stack社は多くの企業のプログラムをサポートしており、知見も多い。ですのでアイデアベースでのご提案などもぜひ教えていただきたいですね。
野口:例えばその他でも、オンラインとオフラインの連携などはStackさんの得意領域だと思っています。現状ポイントはオンラインストアでお買い物のみ付与という仕組みなので、将来的にポップアップやリアルイベントでのお買い物にも対応できるようにStackさんと一緒に考えていきたいですね。
秦:よりモンストファンに向けて素敵な体験を提供できるよう、一緒に連携していきたいです!
編集後記
割引ではなくリワードがエンタメにおける会員プログラムのテンプレとなっていくのかもしれません。
ファンが熱狂するポイントを的確に抑え、推し活をさらに楽しめるモンストアの取り組みは今まで聞いたことがなく、新鮮なインタビューとなりました。誰でも投票できるイベントは公平に見えますが、多くのライトユーザーと一部のコアユーザーで支えられているエンタメ事業においては実は一つの課題になっているのかもしれません。
ポイントでしか交換できないリワードはファンにとって喉から手が出るほど欲しいアイテムです。結果的にポイントが貯まるのではなく、ポイントを貯めるために商品を購入する動きがモンストアでも行われています。
結果が単価やリピート率にも表れており、今後のエンタメ領域でECを取り扱う企業の参考になるヒントが多い内容なのではないでしょうか。