Pasandは、ne Quittez pasがキュレーションするセレクトショップ。「Ordinary Happiness」をテーマに、オリジナルのファッションアイテムやホームプロダクト、そして世界各地で心奪われた素敵なもの、ものとの出会いの楽しさを凝縮してお伝えしています。ne Quittez pas、Sara mallikaのウエアを中心に、UPALAのジュエリー、Pasand Homeのインテリアコレクション、その他国内外からセレクトした幅広いアイテムを展開。
個性の光る商品と、細部までこだわりの感じられる売場作りは、各地のポップアップショップにも通底しており、売場めぐりで印象に残っている人も多いはず。この数年で実店舗は倍以上に増加(2025年12月時点で7店舗)。2020年オープンの青山の旗艦店も、2025年12月にリニューアルしました。
リアル施策が光るブランドですが、自社ECの取り組みも好調です。お店が増えた今でも売上構成の4割を占めており、毎年二桁成長の伸びを見せています。今回は、近年のシステムリプレイスからEC売上の伸長の立役者である清水えりか氏に、盛況の舞台裏と今後の展望を伺いました。
インタビュイー

株式会社Pasand 清水 えりかさん
アパレル販売から店長まで、合わせて13年経験した後、2023年からPasandへ。前職から足掛け4年ほどEC業務に従事。オンラインストアの運営だけでなく、メルマガ・SNS運営、集客・マーケティングと幅広い業務に携わっている。
ブランド好調の追い風を創り出す仕組みと指標
―リアル施策のイメージが強いブランドですが、自社ECのこれまでと、直近の動向について教えてください。
清水:システムの沿革から説明すると、パサンドがECを始めたのが2017年になります。2つの基幹システムを経て、Shopifyに移行したのが2024年2月。以前からShopifyの存在は知っていましたが、リプレイスの際に重視しているのがローカライズとアプリの機能。新機能や、他社の導入事例の変化から、このタイミングでの移行となりました。
商品の特性上、店頭で直に触れてみたいと思うお客様は多いです。出店強化に伴い、これまでECでしか買えなかったお客様が新店に、というケースは増えてきました。それでも、売上の4割をECが占めており、売上も毎年二桁成長で継続的に伸びている状況です。
ECの売れ筋としては、ワンピースやドレスを中心に、3万円程度で1つのコーデで決まるものが定番です。特にワンピースは、ニット商品を中に着込んでも着用していただいていることから、季節的な波動に伴わずに売れ続けている点も特徴です。
売上増の要因としては、リピート率と認知獲得がバランスよく取れていると分析しています。リピート率としては、直近3か月では約20%です。
卸や実店舗で認知を取り、モールに出店しない方針をブラさないことで、自社ECのメリットをお客様に感じてもらいやすいよう心がけています。ECの出荷先データを分析すれば、新店舗やPOP UPの戦略にもつなげられます。
Pasandファンのお客様にしっかりと働きかける取り組みが可能となりました。

―出店が増えたことと、基幹システムの移行により、店舗とECの連携状況にどのような変化がありましたか?
清水:これまで大掛かりなMAやCRMに凝らなくても売上を伸ばすことができていました。近年は店舗数も全体売上も増えました。商品分析の精度向上に留まらず、各チャネルに合わせたお客様との丁寧なコミュニケーションが必要なフェーズに移っています。目下、良質なCRMを回すための下拵えの最中です。
指標としてはLTVを重視していますが、特にアクティブ顧客の動きは、1年スパンで意識しています。顧客の動きをなるべく細かく分析したい願いがあるからです。そのために、購入頻度はF3まで意識するように心がけています。そこまで突き詰めることで初めて、しっかりとしたMAにつなげられると考えているからです。
店舗・EC連携の観点では、以前からスマレジを導入していましたが、Shopifyの導入に合わせて、店舗とECの情報をシームレスに連携できるOmniHubと、VIP-会員プログラムによる座組みを選択しました。Shopifyに特化していることと、他社事例の安定性を重視しています。
この座組みのメリットとしては、自作CDPによるクロスチャネル率追跡をシステム化できたことです。これまでしっかりとデータを収集し、分析する作業を続けてきたからこそ、より豊かなシステム導入の恩恵に預かることができます。
システム化に伴い、各店で独自にCRMを追うことができる環境を整えられました。本社と店舗が連動した動きも可能となったので、上位会員30名に絞った、予約制のイベントも開催。他にも年2回の大型ポイント付与も実施することが可能になりました。
―顧客の購入体験を考えるうえで、大切にしている要素を教えてください。
清水:まず意識しているのは、購入体験を失敗にしないことと、購入のハードルを下げることです。
返品対策もその一環です。Recustomerの導入により、丁寧な対応が可能となりました。元々はコロナ禍の期間中に実施した自宅試着の試みが好評だったこともあり、返品体験の向上がリピート率に大きな影響を及ぼしている点は社内で実証済みでした。返品をキャンペーンに位置付けるのか、特典にするのか。悩ましいところですが、Pasandでは送料無料キャンペーンとセットで促す仕掛けが中心です。たとえ一つの買い物がうまくいかなかったとしても、次に再チャレンジしてもらいやすくする。結果的にブランドへの信頼感を高めてくれると考えています。
また、青山の旗艦店やNEWoMan新宿店ではインバウンドのお客様も多く来店しますが、購入者には会員登録を促しています。次に日本を訪れた際にポイントを使ってもらえるので。ポイントの付与は数字。言語の壁のハードルを下げ、メリットが伝わりやすいです。ECで部分的な言語・通貨の切り替えに対応しているのも、その場で価格感を理解してもらえるため。現状は国外配送のためではなく、来店者の購入体験向上の一助となるという考えからです。リピート率への貢献がうまく機能すれば、更に深い分析を目指すことが可能です。会員ランクごとの送料金額の出し分けや返品回数の管理、とやりたいことも増えてきます。まずは会員プログラムとの連動を目指していきたいです。
合理的なアップデートが、顧客とのコミュニケーションの信頼感と可能性を引き出す
―会員プログラムのリニューアルの狙いについて教えてください。
清水:購入体験とあわせて重視しているのが、お客様にとってのメリットの分かりやすさです。そもそも会員プログラムのメリットがお客様に理解してもらえていないのでは?という疑問が頭の中にありました。これが2024年末のプログラムリニューアルの出発点となりました。
VIP導入当初の会員プログラムは4つのランク。そこからインドのシンボルを感じてもらえるロゴと共に名称変更。「Regular」「Viola」「Jasmine」「Marigold」「Lotus」の5つのランクにアップデートしました。中でも、これまでのRegularを「Regular」と「Viola」の2つのランクに分割したのが大きな変化です。

会員プログラムの指標の置き方は、ブランドによって個性やこだわりが出る個所だと思います。Pasandは独自性の強い商品を持っているからこそ、他社事例からの引き写しではない丁寧な分析指標が必要と考えています。そのため、リニューアル前の「Regular」ランクのお客様については、もっと詳しく知るべきと感じていました。
別角度の工夫として、ランクのラダーに「購入金額」だけでなく、「購入回数」を組みこんだ点が挙げられます。ここで特に注目してほしいランクは「年2回以上、かつ購入金額が年4万円以上」の「Viola」です。「Viola」以上のランクも共通の購入回数を指標としているため、2回の購入で「Jasmine」以上のランクになることは可能です。ただ、ここで重要なのは、Pasandの商品の価格帯であれば年2回購入で誰でも「Viola」ランクになることができるということ。これはお客様にとって非常に分かりやすいメリットになります。メリットが分かりやすければ、どの店舗スタッフの提案も分かりやすくなる。ファンになってもらうためのファーストステップに、明確なインセンティブを組み込むことで、誰にとっても良質な購入体験をサポートできます。
StackさんのVIPには、近年アパレルの導入実績の増えてきたSQからの機能フィードバックもあります。販売側からの要望にも対応してもらえるので、質のいい分析を目指すことができます。サイトを見ていただけると分かるのですが、Coming Soonの記載があるようにまだブラッシュアップさせる予定です。

―ポイント付与が重要な顧客接点になっているとのことですが。
清水:新規のお客様にもポイント付与率を高めに設定しています。「Regular」で3%還元。そこから5%、8%、10%、15%と、ランクのステージに応じて付与率が上がっていく仕組みです。
ポイント付与は、店舗・EC間の送客策としても活用しており、キャンペーンを通じて働きかけています。顧客コミュニケーションの機会を増やすのが主な狙いです。ポイントの失効通知や再入荷通知は反応が顕著ですね。キャンペーンに接してもらうためにも、店舗では会員登録だけでなく、メルマガ登録も促しています。SNS広告と連動させ、ポイント付与のキャンペーン告知に活用できるからです。

キャンペーンで効果的なのは時期、特に大型連休には成果を上げています。
大切なのは不定期にやること。定期的な開催だと、告知であっても顧客接点を生み出すコミュニケーションにつながりにくいという考えから。思わぬ出会いだからこそ、メールマガジンやSNSのキャンペーン内容をじっくり検討してもらえる。そのきっかけと位置付けています。今後はメール以外の通知方法も増やしていく予定です。
―新しい需要発見のための仕掛かりはありますか?
清水:お客様の購買動向を別のアプローチから検証する施策も進めています。
まだ検証の段階ですが、2025年12月にはeギフトも導入しました。ファン同士のリファラルの動きに向けた施策です。
アパレルのギフトは難しいとされがちですが、受け取る側が色とサイズを指定することができれば、もらい損にはならない。様々な需要を知るキッカケにつながるのではと期待しています。将来的にはカタログギフトのような仕掛けができると良いですね。
―今後の展望について教えてください。
清水:商品の分析は100%の精度を目指したいと考えています。そのために重要なのは、MAとCRM。これまでその仕掛かりのための準備を整えてきました。
ECの情報だけでなく、店舗からの情報も掛け合わせることで、顧客の需要を細かく丁寧に捉えるCRMを強化したいです。そこからお客様の着用シーンを拡張した新たな提案を模索できると考えています。より多くのシーンでお客様に着用していただくブランドを目指すことができればと思っています。
細やかな分析を目指すと、キャンペーンの柔軟性を上げたい、ポイントの付与率を商品ごとに設定したい、ポイントの付与額を独自の変数を組むことで算出できる機能がほしいなど、様々なニーズが湧き出てきます。社内だけでなく社外の力も借りながら、一つずつクリアしていきたいです。
編集後記
「ノイラートの船」という比喩があります。知識体系の持続・発展の姿について、航行を続けながら部分的な改修を繰り返す大船に見立てた科学哲学の業界用語です。Pasandのインタビューを通じて想起したのは、上記の言葉はブランドビジネスにおいても当てはまるということ。
ビッグバンリリースによる革新的成果ではなく、日々の商いを続けながらアップデートと検証の積み重ね、高精度な結果を探究する…感度の高い商品を揃えながらも、全てナラティブ任せにしない価値提供の姿勢を肌身で感じました。
売上好調の裏側には必ずそれを下支えする理念があり、その検証とアップデートを可能とする土台がある。その指標が何によって支えられているか、どのような随伴者・道具・データを参照した結果なのか。それを表現するのは、難しい作業ではなかったです。
