「アウトドアを通じて人生にワクワクを。」をコンセプトに掲げ、2017年に創業したアウトドアギアブランドのWAQ。コットやアウトドアワゴンをはじめとするロングセラーを次々と生み出し、SNSでは十数万のフォロワーに支持されています。商品開発からECサイト運営、カスタマーサポートまでを少数精鋭のチームで内製する、アウトドアメーカーです。
同社は2025年12月、Stackの「Appify-モバイルアプリ」で構築した「WAQ公式アプリ」と、「VIP-会員プログラム」によるポイントプログラムを同時にスタートしました。リリースから約8ヶ月(取材時点)で、自社EC売上に占めるアプリ経由の比率は約4割に達しています。
アウトドアD2Cブランドで、ECと連動した公式アプリを持つ例はまだ多くありません。そのなかで、なぜWAQはいち早くアプリに投資したのか。そして「モノを売る場」で終わらせないアプリを、どう設計したのか。
副社長の金光広大さんと、アプリの立ち上げから運用までを担うマーケティング担当の石水未奈さんにお話を伺いました。
インタビュイー
- WAQ株式会社 副社長 金光広大さん
- 同社 マーケティング担当 石水未奈さん
商品開発からアプリ運用まで。「アウトドア好き」が内製するチーム
ー まずはお二人の担当領域と、これまでのご経歴を教えてください。
金光:私は創業時からWAQに在籍していて、現在は商品開発を中心に、マーケティングやカスタマーサポートまで幅広く見ています。マーケティングの実務は石水ともう一名が担当していて、私はその後方支援というかたちです。
石水:私は2年前に入社しました。自社ECの集客を中心に、SNSの運用や広報活動など、デジタルマーケティング全般を担当しています。いま一番比重を置いているのはアプリですね。立ち上げ時の戦略設計から、現在の運用改善、コンテンツの執筆まで担当しています。前職では自治体のプロモーションなど制作系の仕事をしていたのですが、企画から販売まで一貫して自社で行うメーカーでマーケティングがしたいと思い、WAQに入りました。
ー 普段はどのような体制・チームで運営されているのでしょうか。
金光:デザインもカスタマーサポートも営業も、すべて自社でやっています。ECサイトの構築も、本格的なコーディングまではいかないですが、HTMLをさわるくらいのことは社内で完結しています。メンバーに共通しているのはアウトドアが好きなこと。「WAQというブランドを知っていて、働いてみたくて応募しました」という方も多いんです。キャリアは本当にバラバラで、EC未経験から転職してきたメンバーもいます。
「アウトドアを通じて人生にワクワクを。」——キャンプブーム前夜に生まれたブランド
ー 「アウトドアを通じて人生にワクワクを」というテーマは、どのような想いから生まれたのでしょうか。
金光:創業時から自然に掲げていたものです。WAQは3人で立ち上げたブランドなのですが、「みんなアウトドアが好きだし、楽しいことをしたいね」というところから始まっています。それをお客様にも、WAQの製品を使ってキャンプという非日常を通して、人生にワクワクしてもらいたい。この想いは創業期から一貫しています。
ー 2017年の創業当時は、まだキャンプブームが来る前でした。当時と比べて変化を感じますか。
金光:あの頃はまったくでしたね。いまはクオリティ高くものづくりをするブランドが増えて、業界全体のレベルが上がってきた印象です。
ー WAQのお客様には、どのような方が多いのでしょうか。
金光:本当にいろいろな方に使っていただいています。初めてキャンプをする初心者の方から、年間何十泊もされるベテランの方まで、何かしらのWAQ製品を使っていただいているイメージです。
ー SNSで多くのファンに支持されるようになった転機はありましたか。
金光:2019年ですね。いまで言う弊社のロングセラーになったアウトドアワゴンやコットをリリースする頃で、まだ知名度がなく、もっと認知を広げたいタイミングでした。当時、SNSのプレゼントキャンペーンはアウトドア業界ではまだ誰もやっていなかったので、新商品のリリースに合わせて実施したんです。理由はシンプルで、「とりあえずやってみよう」が一番でしたね。他のジャンルではポピュラーなのに、アウトドア業界ではやられていない。だったらやってみよう、と。
利益率の高い自社ECへ。販売以外の接点も築いてきた
ー 自社オンラインストアとモールでは、お客様とのコミュニケーションに違いはありますか。
石水:あえて住み分けをしているわけではないのですが、DM配信のような細かい施策は、Shopifyで運営している公式サイトのほうが打ちやすいですね。
金光:自社サイトでご購入いただくのが、正直うちとしても一番利益率高く販売できます。そこの比率をどう上げていくかは、数年前からミッションとして持っていて、そのための施策を続けてきました。アウトレット商品やパーツ販売など、公式サイト限定の取り扱いもあります。リピート率も、公式サイトのほうが高いんです。
ー キャンプ用品は季節による需要の波が大きい商材です。シーズンごとに施策を変えていますか。
金光:売れる商材はシーズンで明確に変わります。夏はファン(送風機)、寒くなるとブランケットのような商品が動き出す。そのシーズンに売れる商品の露出を切り替えていくのが基本です。
ー レンタルやブログなど、販売以外の接点も多く持たれています。ブランドにとってどんな役割を果たしていますか。
金光:レンタルは外部のレンタルサービスを通じて提供していて、WAQを検討してくださっているユーザーさまとの接点になればと始めました。数が多いわけではないですが継続的に動いていて、需要は確かにあると感じています。ブログは創業時からずっと続けていて、初期は私も書いていました。ブランドが小さかった頃にコンテンツで認知を獲得する目的で始めたのですが、結果的にいまでも重要な入口になってくれています。焚き火のつけ方のようなライトな知識から入ってもらって、徐々に製品を知ってもらう流れをつくっています。
ー 少人数で幅広く取り組まれていますが、施策の優先順位はどう決めているのでしょうか。
金光:基本的には、売上・利益を上げていける施策の優先度を高くしています。ただアプリは、短期的な売上と長期的なコミュニケーションを両立できるので、最優先で取り組んでいます。
ー SNSとアプリの役割は、どう分けていますか。
石水:アプリは既存のお客様がターゲットです。Webで購入していた方にアプリへ移行してもらうのが大きな目的なので。SNSはどちらかというと新規の方や、まだ深く関わっていない方との接点ですね。既存のお客様はなるべくアプリに流れていただく設計にしています。
LINE依存への危機感から、「1つですべて見える」アプリへ
ー Appify・VIP導入のきっかけを教えてください。
金光:購入以外のお客様との接点は、LINEが主にその役割を担ってくれていました。ただ、「それしかない」ことに危機感があったんです。各社が同じようにLINEを発信のメインにしてきた結果、友だちのリストは増えるものの、配信コストが上がってきて、このままだと見合わなくなるのではないかと。2023年頃からは反応が落ちてきている感覚もありました。その代わりに、お客様とコミュニケーションを取り続けられる手段をつくりたい、という話になったのが始まりです。
ー Webサイトだけでなく、アプリを選んだのはなぜでしょうか。
金光:「1つで全部見える」ことが大きかったです。アプリをインストールしていれば、その中でWAQのことが全部わかる。Webサイトはどうしても、購入するために訪れるECサイトとしての側面が強くなります。発信する媒体はたくさんあるのに点在してしまっていたので、「ここさえ見ればWAQのことが分かる」場所として、アプリに凝縮したかったんです。
ー 同規模のアウトドアD2Cブランドで、アプリを持つ例はあまりありません。先行投資に迷いはありませんでしたか。
金光:なかったわけではないです。やったことがないものなので「実際どうなんだろう」とは思いました。ただ逆に、同じような規模のメーカーがやっていないからこそ、先行してやる価値があると考えて進めました。
ー 数ある選択肢の中で、Appifyを選んだ決め手は。
金光:Shopifyとの親和性と信頼性が一番でした。当時、Shopify連携を前提としたモバイルアプリのサービスはほとんどなかったんです。私たちはShopifyを軸に考えていたので、「スマホアプリをつくる」というより「Shopifyの機能を軸にアプリを使いたい」という発想でした。打ち合わせで工数感とできることを伺って、「これでいけそうですね」とすぐに決まりました。決めるまではかなり早かったと思います。
ー 会員プログラムのVIPもセットで導入いただきました。理由はどこにありましたか。
金光:他社さんのアプリをダウンロードして研究したのですが、ほとんどのアプリにポイントやランクの制度がセットで設計されていました。同じStackさんが提供していることもあり、アプリと会員プログラムは一緒にやったほうがいい、というタイミングで導入を決めました。
ー 導入からリリースまでは、どのように進めたのでしょうか。
金光:最初から明確な構想があったというよりは、導入を決めてからVIPでできることを調べながら、「こういうこともできるよね」と足し算していった感覚です。その流れの中でプログラムの形ができていきました。
「買う予定がない日」にも開いてもらうために
ー アプリの設計で、最も時間をかけて議論したのはどの部分でしたか。
石水:最初はShopifyの機能に、YouTubeの表示をプラスするくらいのイメージで考えていたのですが、それだけでは足りないなと。「商品を買いやすくする」ことが一番大事なのは前提として、それ以外の「購入の予定がないときにもアプリを開いてもらう」ことをどう両立するか。そこを一番に考えました。セールや新商品のときだけ開いてもらうものではなく、キャンプの知識を取り入れたい、こういうことを知りたい、というときにも楽しんでもらえるコンテンツ構成にしたかったんです。
ー デザイン面で特にこだわったポイントはありますか。
石水:コンテンツページですね。キャンプ知識のブログをアプリ内で見せるとき、Shopifyのページをそのまま表示すると、バナーが出たり「あ、Webに切り替わったな」と分かる画面になってしまう。私自身、Webサイトが表示されているだけのアプリにはちょっと冷めてしまうので、そこをどうにかアプリらしく、スムーズに見せられないかを一番工夫しました。
ー コンテンツの見せ方では、どんなことを意識していますか。
石水:商品の紹介を押し出しすぎないことです。キャンプ用品を売る前に、そもそもキャンプについての知識——焚き火の起こし方のようなことをメインに置いています。初心者の方でも、アプリを見れば大体のことが分かる。そういう状態を用意していきたいですね。
ー 今後のコンテンツ構想はありますか。
石水:いまは既存のお客様がターゲットの中心ですが、今後はもっと相互コミュニケーションが取れるコンテンツを置いていきたいです。たとえばSNSに投稿していただいたユーザーさまの写真をアプリで見られるようにするなど、ユーザーのコンテンツも載せていきたいと考えています。
週3回のプッシュ通知と「アプリならポイント2倍」——売上比率は6:4に
ー プッシュ通知は、どのような頻度・内容で配信していますか。
石水:いまは週3回ほど配信しています。リリースから半年くらいまでは、新商品やセール情報、アプリ限定の先行販売といった情報が中心でした。今後はセールス以外の配信も増やしていきたくて、7月頃から「週末のキャンプに使える知識」のようなコンテンツ配信を徐々に増やしています。
ー アプリ経由の注文はポイント2倍という設計について、狙いを教えてください。
金光:単純に、「アプリを使ったほうがお得」であることを分かりやすく伝えるためです。たとえば夏に向けた暑さ対策商品のポイントアップ施策と重なれば、アプリならさらに倍になる。シンプルにメリットが増えるかたちですね。単純ですが、意外とやられていない施策だと思います。
ー ポイントを付与しすぎる心配はありませんでしたか。
金光:発行状況は見ていますが、いまのところ想定を超えるようなことは起きていません。利益率の面で許容できる範囲であれば、お客様にポイントを使っていただけること自体は良いことだと考えています。
ー 導入後、Webとアプリの売上比率はどう変わりましたか。
石水:Webの売上をアプリが奪ったのではなく、Web側は維持したままアプリの売上が乗って、全体が底上げされました。いまは自社EC売上のうち、Webとアプリで6:4の比率になっています。
金光:もともと自社サイトを使ってくださるのはリピート率の高いお客様なので、その方々に適したチャネルとしてアプリがはまった感覚です。アプリで4割買われているということは、それだけ「アプリのほうが買いやすい」と感じてくださっているユーザーがいるということだと思います。
ー ダウンロードを促すために工夫していることはありますか。
石水:大規模な新規獲得施策はしていなくて、既存のお客様に向けた発信が中心です。メルマガやLINEでは、ロイヤルなお客様にポイントを上乗せするかたちでダウンロードをご案内してきました。あとはWebサイト上のバナーですね。LINEはリッチメニューにも常設していて、そこからの流入は多いです。
ー 特に効果が良かった施策はありますか。
石水:ダウンロード後のログイン導線です。ダウンロードはしたものの、ログインの方法が分からずそのままになっている方が一定数いらっしゃって。そこでダウンロード後のモーダルで案内を表示したり、「ログインのやり方」を説明するページをつくって誘導しました。新規のお客様と既存のお客様でログイン方法が異なっていて、お問い合わせも多かったので、既存のお客様にはパスワード設定の手順を分かりやすく案内しています。実際そのページへの流入も多く、ダウンロード数が増えてもログイン率を維持できました。
ー App Storeの評価は4.7と高評価です(約200件)。要因をどう分析していますか。
石水:「使いやすい」「販売情報が多くていい」といったコメントをいただいています。ポイントを付与しているので、すぐにアプリでポイントが使えるところも評価につながっているのかなと。ストレスなく当たり前に使えること自体が、ポジティブな評価になっているのだと思います。
ランクよりも「分かりやすさ」。VIPで育てる参加型のポイントプログラム
ー ポイントプログラムの設計でこだわった点はありますか。
石水:正直、設計段階では作り込みすぎませんでした。他社さんの事例を参考にしながら、まず始めてみたかたちです。当初は年間の利用額に応じた会員ランク制も設けていたのですが、いまはランクを一旦休止して、「アプリならポイント2倍」という分かりやすいメリットに絞っています。
ー 導入後、リピート率や購入頻度に変化はありましたか。
石水:ポイントプログラムは2025年12月に導入し、そこから今年8月までを前年の同時期と比べると、リピート率は上がっています。同じ時期に他の施策も動いていたので、ポイントプログラムとそれらの施策が合わさった結果だと考えています。
ー 購入以外の行動へのポイント付与についてはどうお考えですか。
石水:ちょうどいま考えているところで、レビュー投稿へのポイント付与を始めたばかりです。今後は購入以外の行動にもポイントをつけていきたくて、たとえばUGCの写真を投稿していただいたら付与するとか、キャンプ飯のレシピを募集して採用された方に付与するとか。もっとユーザーが参加できて、購入以外でポイントを貯められる仕組みを増やしていきたいです。
ー WAQにとって「ロイヤリティの高いお客様」とは、どんな方でしょうか。
石水:実はあまり明確に定義しきれていないんです。たくさん購入してくださる方がロイヤルカスタマーなのか、購入回数は少なくてもWAQをすごく好きでいてくれる方なのか。SNSで熱心に発信してくださる方や、リアルイベントに来てくださる熱量の高い方もたくさんいらっしゃいます。そういう方々をうまくアプリにつなげていけると面白いと思っています。
「キャンプ行きたいな」で開いてもらえるアプリへ
ー 今後、アプリと会員プログラムを軸に挑戦したいことを教えてください。
石水:セールや新商品のときだけ接点を持つのではなく、買い物の予定がないときにも「キャンプ行きたいな」くらいの気持ちで開いてもらえるアプリにしていきたいです。そのうえで、ユーザーと一緒につくる参加型のコンテンツやポイントプログラムを増やして、商品購入以外でもWAQを楽しんでもらえる、WAQとキャンプを楽しんでもらえる接点に育てていきたいと思っています。
ー 同じようにアプリ導入を検討しているブランドの担当者に、経験者として伝えたいことはありますか。
石水:リリースまでももちろん大変なのですが、本当に大事なのはリリースした後です。リリース後にどう使ってもらうか、その設計を先にしておくと、そのあとがやりやすいと思います。アプリをつくってリリースして終わり、にしないことですね。
編集後記
取材の冒頭から、お二人の言葉の端々にアウトドアへの愛があふれていたのが印象的でした。商品開発からECサイト構築、アプリの戦略設計から運用までを担う内製力。そして「アウトドア業界で誰もやっていないなら、とりあえずやってみよう」というフットワーク。WAQ公式アプリが、リリースから8ヶ月あまりで自社EC売上の4割を占めるまでに育った背景には、この2つがあるように思います。
とりわけ心に残ったのは、「買う予定がないときにも開いてもらえるアプリにしたい」という言葉です。アプリを「売る場所」ではなく「ブランドとキャンプを楽しむ場所」として設計する。その思想は、プッシュ通知の内容からログイン導線の細やかな案内まで、運用の隅々に一貫していました。ユーザー参加型のコンテンツやリワードなど、これからの構想も楽しみです。WAQの挑戦を、Stackはこれからも支えていきます。
