アンカー・ジャパン株式会社 事業戦略本部 ダイレクト戦略事業部 菅野さん(左)
同 マーケティング本部 ブランド・コミュニケーション リードマネージャー 瀬長さん(右)
モバイルバッテリーを皮切りにAmazonを中心に知名度が高まったAnkerグループ。2020年には中国本社「Anker Innovations」が上場を果たし、製品カテゴリーも急速充電器やイヤホン、プロジェクター、スピーカー、ロボット掃除機など多岐にわたります。
アンカー・ジャパンでは2024年4月に「Anker Japan 公式オンラインストア(以下、自社ECサイト) 」をリニューアルし、7月には会員プログラムを「Anker マイレージプログラム」としてリニューアルしました。一般的な会員プログラムとは一線を画したコンテンツについて菅野様と瀬長様にお話を伺いました。
販路は顧客に委ねる。独自販路のサービスも満足のいくレベルに
ー お二人がどのような業務を担当されているのか教えてください。
瀬長:マーケティング本部でブランドコミュニケーションチームをリードしています。CRM・広告運用・SNSプロモーション・インフルエンサーマーケティング、オウンドメディアなどデジタルプロモーションを統括しています。
菅野: 私は事業戦略本部のダイレクト戦略事業部で、自社チャネル全般のマネジメントを担当しています。自社ECサイトや公式アプリにおける戦略立案や施策実行などを統括しています。
今回のマイレージプログラムは、自社ECサイトにおけるお客様との重要な接点にもなる会員プログラムのリニューアルでしたので、CRM施策を管轄する瀬長のチームと共同で進めていきました。
ーここ数年は自社ECサイトのリニューアルや渋谷や銀座をはじめとした実店舗のオープンなど多岐にわたる施策を展開していると思います。どのような観点から取り組まれているのでしょうか?
菅野: 我々はAnkerグループのミッションである「Empowering Smarter Lives」を軸に、どうすればお客様の生活をスマートに、豊かにできるかという観点から事業を展開しています。その中でも特に2024年以降は、お客様との重要な接点である自社ECサイトと実店舗の展開に力を入れてきました。日本法人設立当初からの強みであるEC販路ではAmazon以外でもご購入いただけるように楽天市場や自社ECサイトのサービスを充実させたり、また実際に手に取って製品をお試しいただける直営店舗の展開に注力するなど、お客様が購入しやすい販路を整えています。それが今回の会員プログラムにもつながります。
瀬長: 最近ですと、家電量販店での展開にも力を入れています。都心だけでなく、郊外の家電量販店でお取り扱いいただくことも増えており、どこにいてもAnkerグループ製品をお手にとっていただけるようになってきました。
構想から9ヶ月〜ユーザーインタビューで得た確信
瀬長: 会員プログラムのリニューアルについては2023年の11月から構想をスタートしました。Anker Store の出店拡大といったお客様とのリアルの接点が2024年以降さらに増えることを考えた時、今のタイミングがベストだと思いました。
ー2023年11月の構想から2024年7月ローンチはスケジュールとしては早めのように思います。
瀬長: 会員プログラムには正解がありません。そのため、要件を一つずつ整理し、意思決定を行なっていくプロセスが必要になりました。設計や実装と、少しでもずれてしまうと全体に影響が発生しかねないため、3ヶ月ほど慎重に調整しました。
さらにはユーザーインタビューにも約2ヶ月程の時間をかけて、特にAnkerグループ製品をご愛顧いただいているお客様を中心にどのようなニーズがあるのかヒアリングに力を入れました。
菅野: Ankerグループ製品を多くご購入いただいているお客様からのニーズとして多かったものは、モバイルバッテリーなどのリチウムイオン電池を使用した製品の処分が面倒、わかりにくいというご意見でした。そのためマイレージプログラムの有料会員向けの特典では、対象製品を無料で回収し、次回以降のお買い物で使用できるクーポンをお渡しする「下取りサービス」の仕組みを導入しています。
また新たにスタートした有料会員プログラムの「プライムパス」の会費は年間1,980円。返品の対応や送料などのコストを考えたときに、お客さまにも大きな負担がかからず、会社として継続し続けられる会員プログラムになるように調整しました。
瀬長: 最近ですとロボット掃除機のような大型の製品をご購入いただく際に、使用中の掃除機を処理したいというお声をいただくことも多く、それが次回の製品購入の機会につながると感じました。お客様へのヒアリングを通して私たちも下取りサービスに確信を持つことができた結果です。
ー 他の会員プログラム、例えばAmazonプライム会員などを意識したことなどはありますか?
菅野: 他社の会員プログラムなども業界に関わらず幅広くリサーチしましたが、全く同じものを目指すといったことはなく、シンプルにこれまでのお客様とのコミュニケーションの中から、アンカー・ジャパンのお客様が喜ぶであろう機能や特典と、既に使用しているShopifyの機能やアセットを組み合わせていった結果、Anker マイレージプログラムの形が完成しました。
今回のプログラムではお客様のアクションに基づいたマイル付与の仕組みも導入しています。本特典も、これまでお客様が自主的に投稿していただいていた公式サイト上でのレビューや取り組みに対するインセンティブを新たに組み込みたいという背景で導入が決まりました。
瀬長:マイレージ制にしたのはいくつか理由があります。例えば、従来の会員プログラムを運用してわかった実店舗のファンの存在です。自社ECサイトと実店舗、共通でポイントプログラムを運用していたので、お客様が店舗でどのような製品を購入したか、どの店舗に行ったか等のリアルの動きも見えるようになっていました。去年全国の店舗でスタンプラリー企画を行ったのですが全20店舗 (当時の数) を制覇するお客様もいました。しかも1人や2人ではなく、何人もいらっしゃいました。中にはスタンプラリー中の様子のブログを書いてくださったお客様もいて、熱量の高いファンがいることに気づくことができました。
ただポイントを割引として交換できるプログラムのままだと、このような熱量の高いお客様に還元できることが限定的になってしまいます。そのため、LINE登録やアプリインストール、レビュー投稿や実店舗への来店など、購入以外のさまざまなアクションに対しても還元できるようマイルが貯まる制度にリニューアルしました。
ー従来のポイントプログラムとは要件がかなり異なりますね。これほど大幅なリニューアルだとコスト負担も大きそうです。
菅野:実は、コストに関しては他社の似たプロジェクトと比べて大きくはかかっていません。弊社の自社ECサイトは、ほとんどの機能やサイト構築をインハウスの数名規模のメンバーで携わっています。ECプラットフォームはShopifyを活用しており、どうしても自社でこだわりたい部分以外はShopifyアプリを活用するなどしてコストを最小限に抑えています。
この特徴は自社ECだけでなく、広告運用やカスタマーサポートでも同様です。内製化することでスピードもあがり、お客様からの意見をダイレクトに開発に活かすことができることで、結果としてコストも抑えることができます。今回のマイレージプログラムも基本的な実装は社内で対応し、マイレージの仕組みなどはStack社の方々と実装要件などをすり合わせながら一部の機能開発をお願いする形で進められたおかげで、プログラムの要件定義からローンチまでを約3ヶ月という短い期間かつ低コストで実現することができました。
マイレージプログラムの浸透度は?気になるユーザーの反応は・・・
ー マイレージプログラムはまだ日本のECではあまり取り入れられていないプログラムのように思います。
瀬長:そうですね。ただアンカー・ジャパンのお客様を分析したとき、継続的に製品をご購入しているお客様はアプリ会員になっていたり、LINEの友だち登録をしていたり、共通項が多くありました。そのため、買い物をする過程でいかにお客様とのタッチポイントを増やせるか、そしてお客様にもメリットがあるプログラムとなるように考えた結果、今回のマイレージプログラムに着地しました。
菅野:従来のポイント制度では、お客様がポイントを多く貯めて高額製品に使うケースが多くあり、少額でのお買い物ではあまり利用されない傾向がありました。そのためマイルを貯めることでより還元率が高くなる仕組みへ変更しました。
最も低いリワード額の交換時は1%の還元率ですが、会員ランクが上がるにつれて最大10%まで還元率が高くなるため、たくさんの製品をご購入いただいているようなお客様はよりメリットを感じていただける設計になっています。
ー マイレージプログラムがスタートしてから数ヶ月、会員数は期待通り増えていますか?
菅野:想定より多くの方にご利用いただいています。有料会員プログラムの「Anker マイレージプログラム プライムパス」も同様で、期待以上に会員数が増えています。
プライムパス会員の増加要因の仮説としては、マイルが2倍もらえる特典が想定よりも従来のお客様にとってのメリットが大きかったことと、今回のマイレージプログラムのリニューアルに合わせて実施した、大型のビッグセールに合わせたプライムパス会員限定の特典企画が既存の会員様に認知してもらえるきっかけになったの2点があります。特にマイル2倍の特典に関しては、ロボット掃除機やポータブル電源などの高単価な製品を購入いただくことで特に多く貯まるので、購入と合わせてご入会いただくケースが多いですね。
また、これまで未購入だった会員様の割合も減少しました。 以前のプログラムでは他のECサイトでご購入いただいた方が、保証期間の延長のためにご登録される場合が多かったですが、リニューアル以降はAnker Japan 公式オンラインストアで購入したほうがお得なことに気づいてくださったAnkerファンのお客様が増えてくれたおかげで自社ECサイトでの購入率も高まってきています。
レビューにはスタッフ対応の評価〜Ankerグループが支持される社内体制
ー マイレージプログラムがスタートしてからそこまで時間が経過していないにも関わらず目に見える成果が既に出ているんですね。そこまで熱量の高いAnkerグループのファンはどのようなペルソナを持っているのでしょうか?
瀬長:以前はすでにガジェットに詳しい方に多くご愛顧いただいていました。ですがこの数年で充電関連製品以外にも、オーディオ製品やロボット掃除機、プロジェクターと製品のポートフォリオが広がり、お客様も多様化してきています。例えば完全ワイヤレスイヤホンなどは街で歩いていても、若年層や女性のお客様などでもよく見かけるようになりました。電車に乗っていても同じ車両に複数人使っていただいていることもあり、普及を実感し感謝しています。
その中でも自社ECサイトで購入いただくお客様はAnkerグループ製品の品質や製品ページのクオリティ、カスタマーサポート体制等を評価いただくことが多いです。特に不具合があった際にカスタマーサポートにお問い合わせいただいたお客様から「対応のスピードに感動してファンになりました。」というお声もいただきました。
モバイルアプリのレビューにも対応がいいという評価が書かれていたりします。
菅野:アプリに関してもStack社とこだわりながら開発した背景があります。当初からStack社の代表とお話しした際、弊社の要望をお伝えさせていただき、密に連携しながらアプリの機能もカスタマイズしていただきました。特に強くご依頼した要望は、アプリのメニューからワンクリックでカスタマーサポートのチャットに繋がるような導線の実装です。こちらも急ピッチでの開発でしたが、アプリをご利用されるお客様は、Ankerグループへの熱量もサポートへお問い合わせするニーズも高く、我々の期待値としても高い機能でした。アプリの中でもお客様と繋がれる重要な場所なので弊社としてもこだわったポイントです。
ー Stack社とも長い付き合いとなります。今後の期待なども教えてください。
菅野:弊社の公式アプリをローンチしてからまだ2年ですが、初期の会員プログラム実装から今回のリニューアルまでStack社とはご一緒させていただきました。「VIP - 会員プログラム」と「Appify - モバイルアプリ」のサービスは、我々の公式サイトの運営においてもとても重要な基幹システムとなっています。
今回のマイレージプログラムに関しても、従来のポイントプログラムとは大幅に異なる座組みだったため、週次でのMTGなど、ギリギリまでサポートしていただきました。Stack社としても初めての取り組みもあったと伺っていますが、親身に相談に乗ってくれました。
Stack社は開発スピードが非常に速く、クライアントの意見を大から小まで受け止めてくれます。今回のような大規模なプログラムリニューアルの際にも、我々の要望にも柔軟に対応いただきました。抱えるクライアントも増え、より大規模なサービスへと進化していくはずですが、引き続きそのスピード感と柔軟性はキープしていただきたいなと思っています。
瀬長:Anker マイレージプログラムはローンチできましたが、まだ進化できると思っています。Stack社は他社の取り組みにも詳しく、今後も情報交換から実装までお世話になると思っています。
編集後記
取材を通して感じたことは圧倒的な顧客目線です。Ankerマイレージプログラムは複雑で大規模なプログラムに見えますが、一つずつに理由があり、その理由が顧客にとってメリットがあるから実装しています。ユーザーインタビューやスタッフのいい対応がアプリレビューに記載される、全ての業務を内製化している点など、普段から顧客の声を受け入れ反映する仕組みが整っているようでした。今回のAnkerマイレージプログラムは、より顧客の動きを可視化することが可能になり、コアなファンに対して還元を行うことが可能になります。今回のリニューアルによりAnkerの顧客目線がさらに強固なものになると確信したインタビューでした。