ブランドを分類する時、よく耳にするのが「ストリート」という言葉。しかし、そのルーツやカルチャーはブランドごとに異なり、一括りにはできません。異なるバックグラウンドを持つブランドを深く理解するには、それ相応の労力と時間が求められます。
そんな中、ビーズインターナショナルは、XLARGEをはじめとする数々のストリートブランドを手がけ、長年にわたり確固たる支持を獲得してきました。その人気は単なるトレンドではなく、時代を超えて熱量を維持し続けています。それらはEC運営にも巧みに反映され、ブランドの背景を理解し、世界観を崩す事なく日々の運用に繋げられていると感じます。
ブランドの持続的な成長を可能にし、ファンを惹きつけ続けるその仕組みとは? その核心に迫るべく、ECを統括されている坂井さんにお話を伺いました。
インタビュイー
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株式会社ビーズインターナショナル
デジタルコマース本部 執行役員 坂井 大了さん
ビジネスウェアおよび関連洋品の販売スタッフから本部勤務を経て、バッグ・ジュエリーブランドの経営戦略に従事。併せてEC、デジタルマーケティング領域(全体戦略やサイト構築、CRM関連)を統括。4年前より現職に就いています。
アパレル業界のトレンドへの対応
ー どのブランドも長く人気を保ち続けていると思われますが、ブランドを継続する手法として重要だと思われる取り組みを教えてください。
坂井:ブランド運営ですから当然、業績に浮き沈みはありますが、それでもブランド価値を維持・成長させる事ができているのは、創業者や現代表が標榜してきた「マーケットやトレンドに流され過ぎず、ブランドが持っているカルチャーや背景を顧客に伝え、付加価値を高める事」を常に実践してきたからです。「型」に縛られず、マーケットから感じる変化を常に拾い、ブランドを編集し変化させる。それによりお客様を刺激し、お客様の満足にコミットし続けるのが弊社の価値だと考えています。
自社を一言で現すなら「ストリートカルチャーカンパニー」と言えますが、これは服だけでなくヴィンテージ家具やアート・音楽などの取り組みを積極的に実践しているところからも汲み取れると思います。例えば、国内の女子プロサッカーリーグであったりアーティストやラッパーとの取り組みなどが該当しますね。これらの異なるカルチャーとの融合は、一般的なアパレルの取り組みとは一線を画すものであり、それが価値となってお客様に伝わっているのではないかと。
トレンドの変遷はありつつも、マーケットイン型でこれらの施策と組み合わせ、ユーザー目線を忘れない程良いハイブリッド型を常に心がけています。
ー 直近はややストリートのブームが沈静化したと思われますが売上に影響はありましたか?あった場合、どのように対策しましたか? (ブームに合わせての流通量のコントロールなど)
坂井:そもそも、弊社は一般的なアパレルビジネスとはやや異なりますので、トレンドに合っていたとしても過剰に在庫を持ち過ぎる事はありません。ストリートブームの沈静化から一旦は踊り場にきた印象はありますが、そのような一時的なトレンドがビジネスに大きく影響しているほどではないと考えています。常に念頭に置いているのは「お客様に適正な価値を感じてもらう」事です。
ビーズインターナショナルのブランド戦略
ー ファッションビルからSCまで幅広い商圏で出店されておりますが、ターゲットはどのように考えられておりますでしょうか?
坂井:主要3ブランドである「XLARGE」「X-girl」「MILKFED.」は10代後半から20代半ばの支持が強く、基本的にはそこを重視した出店計画ですが、いたずらに店舗数を増やして拡大する戦略はありません。
必要な時に必要な数を展開する、という戦略で出店していますので、常に慎重に進めています。世界観や出店場所から受けるイメージが最重要であり、それは集客力や館のネームバリューより優先されます。ですから、SCやファッションビルというカテゴリーということよりも良い場所があれば検討する、というスタンスですね。
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ー ROSE BUDのような全くジャンルの違うブランドの事業譲渡がありましたが、運営が可能だと判断した背景を教えてください。
坂井:ROSE BUDは1993年に渋谷明治通りで開業したウィメンズを軸としたセレクトショップのパイオニアです。そして、我々の主要ブランドも1990年代の同時期に創業しています。
カルチャーは違えど時代背景が共通しておりますし、我々の源流であるストリートカルチャーを用いて編集・発信し、ROSE BUDとしての幅や奥行きを広げることは可能だと考えております。また、そこからの顧客の買い回りや、ブランドのスイッチ先として機能する、など様々なシナジーを感じた事も判断材料の一つです。
そして何より、トレンドの変遷はあれどROSE BUDも一つの軸をしっかり持ったブランドです。社内に確固たる運営のノウハウもありますから、それらを活用しつつビーズグループとしての新しいROSE BUDを展開できるのではないかと思います。
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califのオンラインストア戦略
ー 店舗とECとの相互送客で工夫している点を教えてください。
坂井:実店舗に来店されたお客様が、購入したい商品が店舗にない場合、タブレットを通じて自社EC calif へアクセスしてもらい、ご注文頂いた際はそのまま自宅にお届けする、というサービスを積極的に実施しています。当たり前の事ですが、calif の認知にも繋がる効果的な施策です。
併せて、会員の購入体験向上にはモバイルアプリを活用しています。過去から会員ステータスを設定するサービスを通じて店舗・ECを横断で利用してもらい、見えやすさ・買いやすさを段階的に向上させてきており、チャネルを横断しても購入の導線はなるべくシームレスにしたいと考えています。
ユーザーが買いたい時に買いたい場所で買いたい物を購入できる環境を出来る限り提供したい。これは、徐々に当たり前になってきている分野もあります。ファッションなど身に付ける商材の場合、試着が発生するケースは少なくありません。そのハードルを下げる取り組みとして、購入前の試着サービスをを開始したこともその一環です。
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ここ数年はシステム的な制約・不具合に見舞われ、実現できないことが多かったのですが、24年度で基盤が一定整い、25年度から発展させていく目処がつきました。今後、お客様へいっそう楽しんでもらえるショッピングの環境を提供していきたいですね。
ー 多ジャンルのブランドを取り扱うECサイトを運営する際の注意点を教えてください。
坂井:これまで「calif」は弊社の主要ブランドを集めたカートシステムの域にとどまっていたのですが、今後は各々のブランドが主役になることができるECモール化を目指していきます。ブランドを集めるだけではなく、例えば百貨店のような館へ。つまり館(オープンモール)としての編集力が重要になります。
ROSE BUDのように新しいブランドが入ってきた時、世界観を崩さずいかに効果的に発信していけるか?今後の課題のひとつとして捉えています。そのために、コミュニティの形成等も検討しています。
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ー ルックやスナップなど、主に画像コンテンツに力を入れられている印象を受けますが、評価基準などはございますか?
坂井:スナップに関しては、スタッフへの研修・レクチャーを通じて質・量の改善を図り、社内の表彰制度も使って活性化を狙っています。
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多くのお客様が集まる場所でスタッフ自身が自分を露出できる。それは中々できない体験です。そのような特別な環境を楽しんで欲しい。そこからお客様の「かっこいい」「着てみたい」を誘発するようなコンテンツにしたいと考えています。スナップの効果検証は、システムを導入して定量的に判断しています。スマホアプリとの連携を視野に入れ、シナジーを生み出したいと考えています。
このようなスタッフコンテンツやユーザー生成コンテンツは大きなパワーを秘めていますから、これから一層伸びるであろうと感じています。今後、ユーザー参加型のコンテンツを増やしていきたいです。例えば「お気に入りスタッフ総選挙」のような、お客様側でも楽しめるもの。且つスタッフ間のライバル心を煽り、お互いが切磋琢磨していけるようなものがあると良いですね。
Stackとの出会い
ー Stackとの出会いのきっかけと、その当時直面されていた課題についてお聞かせください。
坂井:Stackが(当時Appify Technologies)VIPというサービスをリリースする頃、貴社の代表のゆずしお氏とは既に話はしていました。すぐに導入したかったのですがシステムの立て付け上、当時はどうしても導入できなかったのです。
弊社の会員プログラム自体は4年前に導入済みで、モバイルアプリ・ポイント付与・誕生日クーポンなどある程度出来上がってはいました。中身の精査は必要でしたが、それよりもシステムの不具合を抱えていたことで、着手できない状態でした。2年ほどかけて問題解決を図り、改めてAppify・VIPの導入を決定しました。
ー Stack選定の理由をお伺いできますか。
坂井:当時、モバイルアプリはWEBビューのサービスを使っていました。一定の効果はあったものの、ユーザー目線でいうとUI・UXが足りていない状況でした。
ネイティブに変更する事で運用の工数が増え、社内リソースの確保は必須でしたがチャレンジするべきと判断し、「Shopifyではどのサービスが一番か?」を考えた先にAppifyに辿り着きました。
あとは代表であるゆずしお氏と営業担当のOscar氏の存在も大きかったです。知り合ってから導入まで、本当に長くお付き合い頂きました。毎月のようにオフィスに通い、導入後の運用の流れまで相談していました。そこまで手厚くサポートしてくれる会社は他にありません。リリースした後も、社内の皆様がハンズオンでサポートしてくれています。
Stack社のメンバーは優秀な方が多い中で、それぞれ得意分野が違います。そこをOscar氏が全体をみてバランス良くコントロールしてくれる。個人が営業目線、エンジニア目線、CS目線など、それぞれで話ができるのはとてもありがたい存在でした。
モバイルアプリの進化
ー califのアプリは長年にわたり進化を続けてきたと理解しております。どのような基準で、またどのようなタイミングでアプリの見直しを行ってきたのでしょうか。
坂井:先述しました通り、よりユーザー目線で考えた時にUI・UXはもっと改善していく必要があり、WEBビューから思い切って転換していく方針に切り替えました。
また、ECサイトをリニューアルした事も良いタイミングでした。注意点としては、ネイティブでのモバイルアプリの導入はECサイトが二つあると捉えた方が良いです。だからこそ、事前の社内リソースの確保が重要になります。
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デザインは似ていても両者の得意・不得意なことは大きく異なる
現在、店頭では会員の入会手続きはAppifyを起点に行っていますが、このような接点が増える事でcalifを知ってもらえる機会が創出されます。XLARGEの路面店に行くとそのブランドの商品にしか出会えませんが、モバイルアプリのプッシュ通知からcalifに訪問すると、他のブランドにも出会えます。新しい発見を促す事でお買い物をさらに楽しんで欲しい。今後はレコメンドの強化や導線・検索機能を改善して、さらに新しい出会いを創出したいです。
これらの課題を解決する事は、新規・既存のお客様に対して、2点目3点目の購入を促すために必要な事なので、導入は大変な労力がかかりますが、ブランドの成長に必須だったと実感しております。
ー 売上へのインパクトや施策の自由度など、リニューアルに期待していた成果は達成されましたでしょうか(Appleのアプリは1,056件の評価で4.8点を獲得・2025年1月19日現在)。
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坂井:CVR・滞在時間・PV数等で、事前に想定していた変化量は達成していますが、まだまだ改善の余地はあります。伸び代がまだまだあるので、これからが楽しみですね。
具体的にはモバイルアプリ経由の売上比率が30%程度にまで伸びました。以前は20%に届かない程度でしたので大きな伸びを感じております。また、アプリの評価点も大幅に改善し、コメントにお褒めの言葉をたくさん頂けるようにもなりました。これは社内のメンバー一同とても喜んでいます。Stack社にも無茶を言った甲斐がありました(笑)
今後、更に「見やすい・探しやすい・買いやすい」アプリを目指し、経由売上を5〜60%程度まで持っていきたいと考えています。お客様の購買の起点がモバイルアプリになるようにするのが目標です。
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ー 最近実施されたアプリ施策の中で、特に効果的だった具体的な取り組みをいくつかお聞かせください。
坂井:まずはトップページの大幅な変更です。変更前は、主力ブランドを大きくバナーで表示させていましたが、性別やジャンルの検索から入るトップに変更。ブランドパワーに依存することからの段階的な脱却を目指しています。結果としてユーザーの購入体験が下振れすることはなく、この年末年始の振り返りとしては及第点だったと判断しています。
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また、福袋をアプリ先行販売にした事も効果がありました。なぜ会員登録するのか?なぜモバイルアプリをDLするのか?のメリットをもっと出していきたい、という思いからの施策です。WEBでは、どうしてもセッションが多くなると不具合が多かったのですが、アプリ経由は常に安定しています。今後はセッションが多くなりやすい抽選・先行販売などはアプリで積極的に進めていきたいですね。
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メンバーステータスサービスについて
ー 「VIP-会員プログラム」では、トライオンサービスやBLACK会員限定販売など、ユニークな特典を導入されています。これらのメンバーシップ特典はどのように企画・検討されたのでしょうか。
ユーザーにとって「あったらいいな」というものは一つずつ丁寧に実現していきたいと考えています。TRY ON SERVICEやBLACK会員限定販売は社内で挙がった声を実現したサービスや企画でした。
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ユーザーのちょっとした声を拾いつつ、それをプロジェクト化して進めてきましたが、取り組みを継続していると社内から「これをやりたい」という声も頻繁に出てくるようになりました。
また、座談会を開催して、ざっくばらんにユーザーの声を拾ったり、オウンドメディアを通じたアンケートなども過去に実施しました。これらは単発・不定期で実行してきたのですが、今後は継続的に実施できるよう仕組み化していくことも検討しています。
ー 会員プログラムのリニューアル後、お客様の反応はどのように変化しましたか。
まだまだ道半ばではありますが、DL数・アプリの評価は想定より上振れしています。これらの数字は、「お客様のためになった」という判断材料にはなりますね。
以前はランクの反映が1年に1回でしたが、現在は即時で反映されるのでそれも良い反応に繋がっていると考えています。「また買おう」「違うものを買ってみよう」に繋がるのではないかと。現時点で、GA上の数値をみても上振れしているのがわかりますが、半年・1年したらLTVや購入回数を出して比較したいと考えています。
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サービス導入後もアンケートで反応を収集していきたいですね。CRMはお客様目線を忘れてはいけないので、継続的に声を拾って課題を解決したいです。素晴らしいプロダクトを継続的に出すのがブランドとして最も重要ではありますが、サービス面でもお客様を置きざりにしてはいけません。
califとしての輪郭をはっきりさせて、ストアの人格を作っていくにはユーザーの声を収集し続ける必要があると考えています。
今後の展望について
ー califの今後の展開において、特に注力されたいテーマをお聞かせください。
ECモールとしての基盤・機能・運用は満足できるレベルになってきました。今後は新しいブランドが出店し、取り扱いのなかった商材を増やしていく計画です。引き続き来訪されるユーザーに新しい発見を提供し、お買い物の楽しさを感じてもらいたいです。一例で言うとヴィンテージ家具やアート作品、自転車まで販売していますから。
ー 近年、大手アパレルブランドでもShopifyの採用が進んでいますが、そうしたブランドへのアドバイスをお聞かせください。
Shopifyは素晴らしい特長・機能を持った、可能性しかないカートシステムだと感じています。その反面、事前に考えておかなければならない事は多いと言えるのではないでしょうか。
日本のECの商習慣は複雑でコンテンツリッチなストアが多いです。それをShopifyで実現できるのか?はたまた、本当にそれは実現しなければならないのか?を考える必要があります。つまり、余白を持って検討すべきです。
昨今、Shopifyに乗り換えるストアが多いと思いますが、このような事前の懸念点は潰しておいた方が良いでしょう。リプレイス後に何を実現したいか?を改めて明確にしておき、検討を重ねた上で実行してくださると良いのでは、と感じています。
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編集後記
インタビューを通じて強く印象に残ったのは、常に「お客様のために」という姿勢。その言葉が決して空虚なスローガンではなく、ブランドのDNAとして息づいていることを感じました。
ストリートブランドの世界では、時に排他的なムードがカリスマ性の一部として機能することもあります。ですが、同じカテゴリーに属すると見られがちなビーズインターナショナルは、むしろ真逆のアプローチを貫き、その姿勢が熱狂的な支持へとつながっています。
ブランドの在り方は千差万別であり、重要なのはその価値観に共鳴する顧客を定義し、そこにいかにブランドの世界観を届けるか。同社のその想いはEC、さらにはモバイルアプリやサービスの細部にまで息づいています。
単なるビジネスの1タスクとしてではなく、細部にまで徹底的にこだわること。それこそが、熱狂するブランドを創り上げる重要なファクターなのかもしれません。